初期費用、固定費を抑え、大胆な投資判断が可能に。スタートアップ企業が考えるオフィスの在り方

SaaSスタートアップ企業ならではの視点からセットアップオフィスを選ばれた理由、そしてセットアップオフィスへの移転で得られた成果について、同社VP of Engineeringの成瀬真さんにお話を伺いました。
- 社名:Cloudbase株式会社
- ウェブサイト:https://cloudbase.co.jp/
- 設立:2019年 11月
- 資本金:7億7,076万円(資本準備金含む)
- 事業内容:クラウドセキュリティプラットフォームCloudbaseの開発
- 住所:〒108-0073 東京都港区三田3-2-8 THE PORTAL MITA 2F
- お話を伺った方:VP of Engineering 成瀬真さん
- オフィスの座席数に対して会議室が足りず、不便な思いをしていた
- 採用目的のイベント開催ができる十分なスペースがほしい
- 資金調達の事情にあわせた、柔軟なオフィス選びをしたかった
- 用途にあわせた、さまざまな会議室が使えるように
- オープンスペースでは20〜30人規模のイベント開催ができるように
- 停止条件やフリーレント期間など、スタートアップに寄り添った提案
目次
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オフィスはただ作業する場ではなく、人と人がコミュニケーションする場所
――オフィス選びにつながる、貴社の働き方や大切にしている考えをお聞かせください。
成瀬さん:弊社ではハイブリッドワークというオフィスワークとテレワークを組み合わせた働き方を採用しています。マーケティングや営業といった売り上げを作っていくエンタープライズ事業本部とサービスを開発するテクノロジー本部、この2つの組織の連携が強固であることが弊社の強みです。お客さまからの意見をエンタープライズ事業本部の担当者だけでなくテクノロジー側のエンジニアも直接受け取ったり、テクノロジー本部側の考えや技術をエンタープライズ事業本部側がしっかり理解できたりと、肩を並べて仕事に向き合うことでさまざまなメリットにつながっています。
また、セキュリティ領域のビジネスではありますが、必ずしもオフィスに出社しなくても業務にあたれるようにネットワークなどのセキュリティ対策を行っています。私たちはオフィスをただ作業をする場所ではなく、メンバーとメンバー、メンバーとお客さまがコミュニケーションする場所であると位置づけています。もしオフィスに出社しなければ仕事ができないという環境にしてしまうと、オフィスがただの作業場になってしまうような感覚があり、それは避けるべきだと考えています。
――2024年3月に現在のセットアップオフィスへ移転されるまでは、どのようなオフィス環境だったのでしょうか。
成瀬さん:起業したての創業期は、ベンチャーキャピタルさんが提供されているシェアオフィスに入居していました。メンバーが7名を超えてきた頃から自社オフィスへの移転を考えるようになり、2022年11月頃に八丁堀にある30坪ほど、16席のデスクが置ける広さのオフィスへ移転しました。当時からエンタープライズ向けのサービス展開を進めていたため、大手企業が多く集まる東京駅周辺のエリアを選んでいます。
「ようやく自分たちの城が手に入った!」「ここから歴史を作っていこう!」と意気込んだのも束の間、入居からわずか9ヶ月後には現在入居しているセットアップオフィスへの移転が決定し、さらに5ヶ月後には引越しが完了しています。

事業の拡大とともに会議室の不足が深刻化。自社オフィスでイベントを開催できないことに悩み
――どのような背景からオフィスを移転されることになったのでしょうか。
成瀬さん:最も深刻だった問題は、16席のデスクに対して会議室が1つしかなく、会議をするスペースが不足していたことです。会議室はお客さまとの大事な商談を優先して使用していたため、オフィスの隅でメンバー同士の会議をしたり、上司と部下がオフィスを出て散歩しながら1on1を実施する「散歩1on1」が当たり前になったりと、とにかく不便な思いをさせていました。
さらにはお客さまとのオンライン会議のスペースすら困るようになりました。お客さまとの会議ではセキュリティに関するトピックを話し合うことになりますので、たとえオンライン会議であってもセキュリティ対策がなされた環境が望ましいでしょう。
また、採用目的の自社イベントの開催にも困っていました。ゲストも参加者も収容できる十分なオープンスペースを自社では用意できず、仕方なく以前に入居していたベンチャーキャピタルさんのシェアオフィスにあるスペースをお借りしていました。本来は後進のスタートアップ企業にスペースを譲るべきですので、ずっと後ろめたい気持ちを抱えていたのです。
こうしたオフィスの課題を解決するため、資金調達に動くよりも前から新しいオフィス探しを始めました。

シェアオフィスや自社オフィスと比較検討。セットアップの決め手とは
――オフィスの移転にあたって、どのように比較検討されていたのでしょうか。
成瀬さん:まず検討したのは、シェアオフィスか自社オフィスかの二択でした。実際にシェアオフィスを内見してみると、広いシェアスペースは使用できるものの利用時間に制限があったり、他社の利用状況によって予約が取れなかったりと、創業当初から社内のコミュニケーションを促進するイベントを積極的に行ってきた弊社にとっては都合が悪いように感じたのです。実際に以前のオフィスでも社内向けの寿司パーティーや、採用関係なくネットワークを広めるためのMeet upなどを開催していました。イベントを通して「この会社はおもしろい!」と思っていただき、少しずつ輪を広げていくことは、スタートアップ企業にとって大事なことだと考えています。
自社オフィスのうち、内装工事が必要なオフィスも検討しましたが、時間も予算も自社のキャパシティを超えてしまいました。自分たちで内装を考えて工事するには、そのためだけにプロジェクト化しなければならず、スタートアップ企業である私たちにそんな時間の余裕はありません。オフィス移転のイニシャルコストについても、内装費が坪単価で50万円、110坪のオフィスでは5,500万円もかかります。
当時は資金調達が進行中であり、最終的にいくら口座に着金するか、本当に100%全額が着金するか、仮に目標金額を調達できなかった場合はどうなるか、さまざまな悩みや心配がありました。
――オフィスにかける予算と資金調達について、どのように考えていますか。
成瀬さん:スタートアップ企業によって考え方はさまざまですが、弊社はかなり抑えたほうだと思います。ざっくり計算しますと弊社の場合、調達金額に対して10〜20%ほどをオフィス移転に投じており、これは他のスタートアップ企業と比べて低い水準です。
もちろんオフィスの内装にお金をかければメンバーのモチベーションが上がったり、「魅力的なオフィスで働きたい」といった層の採用に効果がでたりといったメリットもあります。
しかし私たちにとって仕事に対するモチベーションの源泉は「魅力的なオフィスで働いていること」ではありません。オフィスを自分たちの自尊心の支えにするのではなく、社会を変えるための仕事をする場所として、有意義なコラボレーションが生まれる場所として活用したい、そのために大事なお金をかけたいと考えています。
こうした私たちのオフィスに対する考えは、内装やレイアウト、オフィス家具に余計なお金をかける必要がないセットアップオフィスと親和性が高いと感じ、移転先としてセットアップオフィスの物件を選ぶことなりました。

停止条件やフリーレント期間の設定など、資金調達を進めるスタートアップ企業に寄り添った対応
――セットアップオフィスへの移転にあたって、弊社にお声がけいただいた理由を教えてください。
成瀬さん:サンフロンティア不動産さんとVCであるEast Venturesさんが共同で運営するスタートアップ向けのシェアオフィス『Hive Shibuya』をはじめ、「スタートアップ企業を応援したい」という真摯な姿勢が大きな理由です。おかげでセットアップオフィスの契約を進めるにあたって、腹を割ってご相談できています。
たとえば、資金調達が実施できないと判断された場合、多少の違約金をお支払いすることで契約を解除できる「停止条件」を契約内容に盛り込んでいただきました。もうひとつありがたかったのが、「裏フリーレント期間」の設定です。サンフロンティア不動産さんの計らいで契約の締結からセットアップオフィスへ実際に入居するまでの期間分の家賃を無料としていただけました。その他にも仲介会社さんを通さずに直接セットアップオフィスを契約できたため、フリーレント期間分の家賃と仲介手数料分の家賃1ヶ月分、あわせて2,000万円前後は削減できている計算です。

十分な会議室やオートロックを高く評価。オフィス家具はレンタルすることで初期費用を抑えた
――THE PORTAL MITAを選ばれた理由を教えてください。
成瀬さん:バーカウンターやファミレス席などを含め、20〜30名規模のイベントを開催できるオープンスペースがまず気に入ったポイントです。そして執務エリアには最大で60席を設置することができます。
オフィス移転のきっかけにもなった会議室についても、当初は3部屋もあれば十分かと考えていたのですが、最終的には完全個室の会議室が4部屋と、5つのテレフォンブースを設置することができました。ただ、メンバーの出社が集中する日になると、タイミングによってはすべての会議室が埋まってしまうこともあり、想定外ながらも嬉しい状況です。
その他にも、他の人に会話の内容が聞こえてしまう、オープンスペースタイプの会議室も置いています。主にサービス開発やイベント企画などのシーンで活用しているのですが、聞こえてきた会議の内容に興味を持ったメンバーが続々と集まってくるのです。そうした予想外のコミュニケーションから新しいイノベーションが生まれることを密かに期待しています。
また、執務エリアとオープンスペースをしっかり区切ることができるオートロックについても、クラウドセキュリティを扱う弊社にとっては必須ポイントでした。
――引越し後、内装やレイアウトについて、どのような工夫をしましたか。
成瀬さん:執務エリアのデスクやオフィスチェア、その他の家具を購入するのではなく、家具・家電レンタル・サブスクサービス「CLAS(クラス)」からレンタルすることでオフィス移転時の初期費用を抑えています。チームの体制もメンバー数もすぐに変わっていくため、オフィス家具を柔軟に入れ替え、オフィスの形を変えていけることは、弊社のようなスタートアップ企業にとってはかなり便利だと思います。
オフィスチェアをレンタルする際のこだわりのひとつが、黒ではなくコーポレートカラーであるオレンジを選んだことです。当然ながら黒のほうが一般的ですのでレンタル料が安く、オレンジのオフィスチェアは特注品なのでよりコストがかかります。
代表からは「オフィスチェアの性能は同じだから、安いほうがいい」との意見もあったのですが、私個人の思いとして「オフィスはメンバーが帰りたくなる場所であるべき」であり、そのためには一目見て「ここは自分たちのオフィスだ」と愛着を感じてもらいたかったのです。PCやデスクばかりで執務エリアはどうしても無機質になりがちですが、オフィスチェアをオレンジにしたことで、自分たちらしい愛着が沸くスペースになったと思います。

セットアップオフィスへの移転で費用を抑え、より大胆な投資判断を下せるように
――セットアップオフィスへの移転で、どのような成果が得られましたか。
成瀬さん:弊社はいわゆる“SaaSスタートアップ”になるため、Burn Multiple(バーンマルチプル)という指標が重要視されます。この指標は、SaaS企業の成長、より具体的には新たに生み出したARR(年次経常収益)に対して、投じた資金をいくら消費したかを示す数字であり、数字が低ければ低いほど効率的に資金を活用して成長できていると判断されます。
具体的な数値までは公開できませんが、今回のオフィス移転・家賃などをかなり抑えられた結果、弊社はBurn Multipleをかなり抑えられています。もちろんメンバーのがんばりによる高い成長率も重要な要因ですが、固定費をしっかり抑えられていることは見逃せないポイントです。
では、このBurn Multipleを抑えられると何が良いのか。投資家からの評価につながるだけでなく、今後より大胆な投資判断を下すことができるのです。資金に余裕があるため、「生成AI活用に投資しよう」「エンジニア採用を強化しよう」といった「攻めの意思決定」ができるのです。セットアップオフィスを選択したことは、将来の「攻めの意思決定」につながっていると言っても過言ではありません。
――メンバーの皆さんからはどのような反応が得られていますか。
成瀬さん:オフィス移転後の初めての月曜日、執務エリアでPC画面に真剣な表情で向き合っているメンバーやガラス張りの会議室で何やら笑顔で議論しているメンバーを見た瞬間、なぜか泣きそうになりました。少し前まではメンバー同士の会話で集中できなかったり、会議のたびに場所を探していたりと、さまざまな不便と付き合いながら仕事をしていました。今ではそうした苦労はなく、オフィス移転は会社にとって本当に必要だったことだったなと確信しています。
弊社に足を運んでくださったお客さまからも「応援したくなるオフィスだね」「こういう雰囲気で仕事ができて羨ましい」など、ありがたい言葉をいただいており、私たちとお客さまの関係性が深まっているように感じます。

スタートアップ企業のオフィス選びは、オフィス活用の目的を明確にすべき
――新しいオフィスにおける、今後の展望をお聞かせください。
成瀬さん:オフィスに引越してから事業も採用活動も順調に進み、現在メンバーは40名となりました。今後も事業の拡大と比例してメンバー数も増やしていき、限界までこのセットアップオフィスを活用してから、より大きなオフィスへ移転していきたいと考えています。
最近ではオフィスだけでなく、オフィスがあるこの三田という街がすごく好きになってきました。学生街ならではの活気があり、飲食店がたくさんあり、まだまだ開拓しきれていません。オフィスを飛び出してメンバー同士、メンバーとお客さまの間でどんどんネットワークを広めていきたいですね。
――最後にオフィス移転に悩んでいるスタートアップ企業の担当者へ、メッセージをお願いします。
成瀬さん:オフィス移転というプロジェクトを通して感じたのが、オフィスを活用する目的を明確にすることの重要性です。将来のメンバー数や場所などでなんとなく選んでしまうと、いざオフィスでやりたかったことができなかったり、弊社のように会議室が足りなくなったりと、さまざまな問題を抱えて結局また移転しなければならなくなります。私たちの場合は、「コラボレーションの場にすること」という明確な目的を掲げていたからこそ、満足できるオフィス移転になったのだと思います。
シェアオフィスや自社オフィス、セットアップオフィスなど、どの契約にするか、どこのオフィスにするか、さまざまな選択肢に対して明確な目的を持ち、自社にあったオフィスを選んでください。
――ありがとうございました。
